近年、ベトナムのソフトウェア開発現場ではアジャイル開発が主流となり、同時にAI（人工知能）の活用が急速に進んでいます。企業の8割がAIを導入するなど、その勢いは目覚ましいものがあります。
この記事では、「ベトナムでのAI開発をアジャイルで進めたい」と考えている方に向けて、網羅的に解説します。
コスト効率と開発スピードを両立し、イノベーションを加速させる「ベトナム×アジャイル×AI」の可能性を探っていきましょう。
ベトナムにおけるアジャイル開発の現状と強み
ベトナムのソフトウェア開発において、アジャイルはもはや標準的な手法として定着しています。
スクラムやDevOps文化の浸透
多くの企業がスクラムを採用し、1～2週間の短いスプリントで計画・開発・レビュー・振り返りのサイクルを回しています。日次のスタンドアップミーティングで進捗を共有し、課題を迅速に解決する文化が根付いています。 さらに、CI/CD（継続的インテグレーション/継続的デリバリー）といったDevOpsプラクティスも普及しており、自動テストや継続的デプロイにより、品質を維持しながら頻繁なリリースを実現しています。バーンダウンチャートやベロシティ管理による進捗の可視化も一般的です。
柔軟なチーム構成と適応力
プロジェクトの状況に応じて、必要なスキルを持つメンバーを迅速に集め、柔軟にチームを編成できるのがベトナムのアジャイルチームの強みです。開発フェーズに合わせてメンバー構成を最適化したり、DevOpsエンジニアやクラウド専門家を組み込んだりすることで、開発スピードとインフラ構築を並行して進められます。 若く学習意欲の高い人材が多く、新しい技術や手法を積極的に取り入れる姿勢も、アジャイル開発のスムーズな導入と実践を後押ししています。経営層のアジャイルへの理解も進んでおり、チームが自律的に動ける環境が整っています。
アジャイル普及の背景
ベトナムでアジャイルが急速に普及した背景には、以下の要因があります。
- スタートアップエコシステムの成長: 競争の激しい市場で素早く製品を投入する必要性から、アジャイルが重視されました（imarcgroup.com）。
- 海外（特に日米欧）向け開発需要: 国際標準の開発手法としてアジャイルとDevOpsを採用する企業が増加しました。
- 業界全体の認識: 「アジャイル開発＝高品質かつ柔軟」という認識が広まり、エンジニアのスキル習得が進みました。
- 政府の支援: IT人材育成やデジタルトランスフォーメーション推進政策が後押しとなっています。
ベトナムにおけるAI活用の最前線：主要分野と導入事例
ベトナム企業は多様な分野でAIを活用し始めています。企業の約8割が過去1年でAIを導入したという調査結果もあり、その普及は目覚ましいものがあります。
以下に、主要なAI活用分野とベトナムでの具体的な導入事例を表にまとめました。
| AI技術分野 | 概要 | ベトナムでの導入事例 (企業名/サービス名など) | 主な効果・用途 |
|---|---|---|---|
| 自然言語処理 (NLP) | 人間の言語をコンピュータが理解・生成する技術 | ・Vbee: 対話型AIソリューション (200万ユーザー/300社導入) ・FPT AI (FPT Software): ベトナム語対応の音声認識、テキスト要約、対話エンジン<br>・Tiki.vn: AIチャットボット (1日3万件の問い合わせ対応) | コールセンター業務効率化、カスタマーサポート自動化、テキスト分析、自動翻訳、バーチャルアシスタント |
| 画像認識 | 画像や動画から情報を抽出・認識する技術 | ・ユニクロ・ベトナム: スマートミラーによるバーチャル試着 ・WinMart (旧VinMart): 販売データ分析による在庫最適化、顧客行動分析 ・Saigon Co.op: 需要予測による生鮮食品の過剰在庫削減 (20%削減) ・DEHA Solutions: 建設現場のひび割れ検知、物流OCR ・VinAI Research: ドライバーの眠気・注意散漫検知システム | 店舗での購買体験向上、在庫管理最適化、需要予測精度向上、外観検査自動化、書類読み取り自動化、運転支援による事故防止 |
| 音声認識 | 人間の話し声をテキストデータに変換したり、内容を理解したりする技術 | ・FPT AI Engage (FPT Smart Cloud): コールセンター向けAIアシスタント (仮想オペレーター) ・Home Credit: FPT AI Engage導入 (2019年〜) ・Vbee: テキスト読み上げ（音声合成）技術、ニュース読み上げアプリ・Olli Technology: 子供向け対話型スマートトイ | コールセンター自動化 (自動発信・着信応答)、対話型IVR、音声入力インターフェース、音声コンテンツ生成、教育・エンタメ分野での応用 |
| 需要予測・レコメンド | 過去のデータから将来の需要を予測したり、ユーザーに最適な情報を推薦したりする技術 | ・Saigon Co.op: 生鮮食品の需要予測による廃棄ロス削減 ・Tiki, Shopee: ECサイトでのパーソナライズされた商品レコメンデーション・物流・運輸業界: ルート最適化、配車予測・金融機関: 融資審査、与信モデル、パーソナルなサービス提案 | 在庫最適化、廃棄ロス削減、売上向上 (コンバージョン率改善)、マーケティング最適化、配送効率化、待ち時間短縮、リスク評価精度向上、顧客満足度向上 |
これらの事例からもわかるように、ベトナムでは顧客接点の強化、業務効率化、新たな価値創造のために、幅広い産業でAIの実用化が進んでいます。
アジャイル×AI開発を支援するベトナムの開発会社
ベトナムには、アジャイル開発の実績と高度なAI技術力を兼ね備えた開発会社が数多く存在します。ここでは、代表的な企業をいくつかご紹介します。
| 会社名 | 設立年/規模 | 強み・特徴 | 日本市場との関連 | 公式サイト例 |
|---|---|---|---|---|
| FPTソフトウェア | 1999年 / 2万人以上 | ベトナム最大手。グローバル展開。AI・IoT・クラウド等先端技術に強み。豊富な人材と大規模デリバリー能力。ブロックチェーンやAI専門チームあり 。CMMIレベル5取得 。 | FPTジャパンを通じ日本市場で20年以上の実績。大手企業との協業多数。日本語対応可能。 | fptsoftware.com, fpt-software.jp |
| リッケイソフト | 2012年 / 2,200人以上 | 急成長中のITアウトソーシング企業。AI、クラウド、データサイエンス、モバイル/Web開発など幅広いサービス提供。アジャイル体制での柔軟かつ迅速な開発。品質とコストの両立 。 | 日本市場に注力。住友商事と資本提携 (2024年) (prtimes.jp)。日本語対応可能。 | rikkeisoft.com/ja |
| DEHAソリューションズ | 不明 / 不明 | ハノイ・フエに拠点。画像処理・機械学習分野のAI開発が得意。建設・物流・小売・医療等で実績。提案力の高さに定評。スタートアップやR&D案件の実績あり )。 | 日本語対応に強み (N1/N2レベルのエンジニア多数在籍)。日本企業との連携多数。 | offshore-kaihatsu.com/directory/deha-solutions/ |
| TMA Solutions | 1997年 / 3,000人以上 | 老舗企業。AI・データ分析専門部隊あり。CMMIレベル5、ISO 27001等の認証取得。通信、金融、ヘルスケア等に強み 。 | グローバル展開しており、日本を含む各国に顧客を持つ。 | tmasolutions.com |
| KMS Technology | 2009年 / 1,000人以上 | 米国にも拠点。アジャイル開発とテスト自動化に強み。ソフトウェア製品開発支援が得意。 | 主に欧米市場向けだが、日本企業との協業実績もあり。 | kms-technology.com |
これらの企業は、アジャイル開発のノウハウとAIに関する専門知識を併せ持っており、日本企業の多様なニーズに応えることが可能です。パートナー選定の際は、自社のプロジェクト要件（技術スタック、業界知識、予算、コミュニケーション体制など）に最も適した企業を選ぶことが重要です。
AI開発にアジャイル手法を用いるメリット
不確実性が高く、試行錯誤が不可欠なAI開発において、アジャイル手法は非常に有効です。
| メリット | 詳細 |
|---|---|
| 開発スピード向上と迅速なフィードバック | 短いスプリントでプロトタイプを早期に開発・テストでき、モデル精度や性能に関するフィードバックを素早く得られる。これにより、市場投入までの時間（Time to Market）を短縮できる (rikkeisoft.com)。 |
| 精度改善の反復試行の効率化 | 各スプリントでモデル改善サイクル（データ前処理、アルゴリズム調整、パラメータ最適化）を回せるため、PDCAを高速化し、効率的に性能を高められる。途中の知見をすぐに次の計画に反映でき、無駄が少ない (rikkeisoft.com)。 |
| チーム協働と知見の集約 | データサイエンティスト、エンジニア、ドメインエキスパートなど多様な専門家が、日次のミーティング等を通じて密に連携。知識や課題を迅速に共有し、協力して解決することで、高品質なAIソリューション開発につながる。ベトナムの開発チームはフラットな組織が多く、議論が活発。 |
| ユーザー価値志向の開発 | スプリントごとにユーザー価値（ユーザーストーリー）を意識した開発を進めるため、ビジネスニーズとのズレを防ぎやすい。技術とビジネス要件のすり合わせが密に行われ、導入効果の高いAI開発が可能になる。 |
アジャイルとAI開発の組み合わせは、変化に強く、効率的で、価値創出に直結する開発プロセスを実現します。特に要件が流動的な初期段階のAIプロジェクトには最適と言えるでしょう。
ベトナム企業との連携：メリット・リスクと対策
ベトナム企業とのオフショア開発でAIプロジェクトを進める際には、大きなメリットがある一方で、留意すべきリスクも存在します。
ベトナム企業と組むメリット
| メリット | 詳細 |
|---|---|
| コスト競争力 | 日本の約1/3とも言われるエンジニア人件費により、開発コストを大幅に削減可能 。PoCから本格導入まで、予算を抑えつつ実行できる。近年は品質も向上しており、コストパフォーマンスが高い 。 |
| 豊富で優秀な人材 | 若年層が多く、理工系人材が豊富。AI・データサイエンス分野の人材も増加傾向。国際的なコンテストでの活躍や研究機関 (VinAI Researchなど) の成果も見られる 。最新技術にキャッチアップした優秀なエンジニアを確保しやすい。 |
| 親日的で良好なコミュニケーション | 歴史的・文化的に親日的であり、ビジネスも円滑に進めやすいとされる。日本語対応可能なブリッジSEやエンジニアが多数存在 。日本との時差が2時間と少なく、リアルタイム連携が容易 。 |
| アジャイル・スクラムへの親和性 | アジャイル開発が広く普及しており、日本企業が期待する開発プロセスを共有しやすい。勤勉で献身的な労働倫理もプロジェクト推進にプラス 。 |
考慮すべきリスクと対策
| リスク | 主な対策 |
|---|---|
| コミュニケーションの課題 | ・日本語堪能なブリッジSEの配置依頼・チャットやビデオ会議による高頻度なコミュニケーション・成果物受け入れ基準の明確化・文書化・文化的な違い（婉曲表現など）への配慮 ・定期的な訪問やオンライン交流による関係構築 |
| 品質管理・セキュリティ | ・契約前に品質保証プロセス（ISO 9001, CMMI等）やセキュリティ認証（ISO 27001等）を確認 ・テスト計画書や進捗報告書の提出義務付け・ソースコード管理権限やデータアクセス権のコントロール・日本側での受入テスト実施と不具合対応の契約明記 |
| 知的財産・契約面 | ・詳細なNDA（機密保持契約）の締結<br>・契約書での知的財産権の帰属（発注者側へ）の明記 ・準拠法（できれば日本法）と管轄裁判所の取り決め・ソースコード取扱方針やデータ共有ルールの文書化と周知徹底 |
| 要件逸脱 | ・アジャイル手法の活用（小まめなデモとフィードバック）<br>・各スプリント成果物のレビューと早期修正依頼<br>・ユーザーストーリーや受け入れ基準の明確化・文書化による認識合わせ・（ベトナムチームは変更対応に慣れているため）速やかな計画調整を依頼 |
適切なパートナー選定と、上記のようなリスク対策を講じることで、ベトナムとの協業メリットを最大限に引き出すことが可能です。
なぜ今、ベトナムでアジャイル体制のAI開発を始めるべきなのか？
最後に、今ベトナムでAI開発をアジャイルで始めるべき理由をまとめます。
AI市場の急成長と技術力の向上
ベトナムのAI市場は年率15%超で成長しており、2030年には15億ドル規模に達すると予測されています。企業のAI導入率も高く（80%）、技術者のスキルや経験値が急速に向上しています。まさにAI導入のフロンティアから主要プレイヤーへと変貌しつつあるタイミングです。
アジャイル開発の普及による効率性
アジャイル開発が根付いているため、AIプロジェクトのPDCAを高速で回せる環境があります。優秀なAI人材とアジャイルなプロセスを組み合わせることで、高品質なAIソリューションを迅速に市場投入できます。
コストと品質の良好なバランス
現在のベトナムは、依然として人件費が比較的安価でありながら、エンジニアの質や開発プロセスの成熟度は向上しています。費用対効果が極めて高いフェーズにあり、日本企業にとって魅力的なパートナーとなっています。
政府の強力な後押しとエコシステムの形成
ベトナム政府はAIを国家戦略と位置づけ、人材育成や研究開発を支援しています。これにより、スタートアップから大企業まで多様なプレイヤーが集まるAIエコシステムが形成されつつあり、共同研究や新規事業創出の機会も広がっています。
結論：ベトナムはアジャイル×AI開発の最適なパートナー
ベトナムは、急速なAI技術の発展と、広く普及したアジャイル開発文化、そしてコスト競争力と優秀な人材プールを兼ね備えた、AI開発における非常に魅力的なパートナーです。
アジャイル開発のスピードと柔軟性を活かし、ベトナムの優秀なAIエンジニアと連携することで、コストを抑えながらも高品質なAIソリューションを迅速に実現できる可能性が高まります。もちろん、コミュニケーションや品質管理などのリスク対策は不可欠ですが、それを上回るメリットが期待できます。
AIによるイノベーションがビジネスの競争力を左右する現代において、ベトナムでのアジャイルなAI開発は、貴社のデジタルトランスフォーメーションを加速させる強力な一手となるでしょう。ぜひ、ベトナムとの協業を検討してみてはいかがでしょうか。
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