世界的なIT人材不足とコスト削減ニーズ、さらにDX（デジタルトランスフォーメーション）の加速に伴い、オフショア開発への注目度はかつてないほど高まっています。海外拠点を活用することでコスト競争力を維持しつつ、24時間体制の開発を実現できるメリットは非常に大きいといえます。
しかし、具体的に「どれほどの規模で成長しているのか？」「日本市場ではどの程度浸透しているのか？」といった疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。そこで本稿では、グローバルと日本国内それぞれの市場規模を表で示しながら、その背景にある根拠や動向を明らかにしていきます。
数字で見る世界のオフショア開発最前線
さまざまな調査レポートによれば、世界のオフショア開発市場は年平均成長率（CAGR）で5％～10％程度の伸びを示すと報告されています。その背景には、IT人材不足が深刻化する一方で、コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの普及が挙げられます。企業が「地理的な制約にとらわれない開発体制」を求め始めたことで、国境を超えたオフショア開発の需要が一気に拡大しているのです。
世界市場規模の推移（一例：日本円換算）
下記の表は、米ドルで公表されている数値を1USドル＝110円と仮定して日本円に換算した例です。実際の為替レートや市場調査によって数値が異なる可能性はありますが、おおまかな傾向をつかむ参考としてご覧ください。
| 年度 | 世界市場規模（億円）（1USドル＝110円換算） | 前年比成長率（％） | 根拠の例 |
|---|---|---|---|
| 2018年 | 9兆3,500 | – | 主要調査会社の推計（※1） |
| 2019年 | 9兆9,000 | 5.9 | 北米のIT系リサーチ企業の報告（※2） |
| 2020年 | 10兆4,500 | 5.6 | 同上 |
| 2021年 | 11兆5,500 | 10.5 | 新興国でのIT投資増加（※3） |
| 2022年 | 12兆6,500 | 9.5 | コロナ禍によるリモート開発需要の拡大（※4） |
| 2023年 | 13兆7,500 | 8.7 | オフショア企業の増加 |
| 2024年 | 14兆8,500 (予測) | 8.0 (予測) | – |
| 2025年 | 16兆5,000 (予測) | 11.1 (予測) | DX需要のさらなる高まり |
上記のように、インドや東欧、東南アジアを中心にオフショア拠点が急増しており、豊富な人材プールと比較的低い人件費、さらに高度なIT教育（英語力やプログラミングスキルなど）を背景に、グローバル企業が一斉に海外開発リソースへシフトしています。日本企業も同様に、IT人材不足とDX推進のニーズが重なり、オフショア開発への需要を年々高めている状況です。
こうしたトレンドを踏まえると、世界のオフショア開発市場は今後も拡大を続けると予想されます。新興国のIT産業育成政策やクラウドサービスの進展によって、企業が海外人材を活用するハードルがますます下がっていることも、その後押しとなっています。
日本国内のオフショア開発事情、なぜ今伸びている？
日本でもIT人材不足が大きな課題となっており、経済産業省の試算では2030年までに最大79万人ものITエンジニアが不足するといわれています。同時にDX推進が急務とされる中、国内リソースだけでは開発需要をまかないきれない状況です。その結果、海外の豊富な人材プールを活用する動きが本格化し、オフショア開発の市場規模は数千億円規模に達していると推定されます。
日本国内のオフショア開発市場規模（例）
| 年度 | オフショア開発市場規模（億円） | 前年比成長率（％） | 根拠の例 |
|---|---|---|---|
| 2018年 | 2,500 | – | 経済産業省データ・IT企業ヒアリング |
| 2019年 | 2,800 | 12.0 | 大手SI企業の受注実績など |
| 2020年 | 3,100 | 10.7 | コロナ禍でリモートワークが浸透 |
| 2021年 | 3,500 | 12.9 | オンライン会議ツールの普及 |
| 2022年 | 3,900 | 11.4 | 同上 |
| 2023年 | 4,300 | 10.3 | DX・IT人材不足がさらに顕在化 |
| 2024年 | 4,600 (予測) | 7.0 (予測) | – |
| 2025年 | 5,000 (予測) | 8.7 (予測) | AI・クラウド案件の増加 |
このように、少子高齢化による人材不足とDX推進ニーズが高まる中で、オフショア開発は「コスト削減」と「リソース確保」の両面から大きな注目を集めています。
オフショア先の主役交代！？ 東南アジアの存在感
ひと昔前のオフショア開発といえば中国が代名詞でした。しかし最近は中国の人件費高騰や政治リスクなどを受け、ベトナムやフィリピンといった東南アジア地域が活況を呈しています。英語力や日本語教育への積極的な取り組みにより、コミュニケーションロスを最低限に抑えられる点が評価されているのです。
- インド
古参のIT大国であり、世界的にも人材プールが多い。ただし近年は英語力の高いエンジニアほど報酬が高騰しがち。 - 中国
かつては圧倒的な規模を誇ったが、政治リスクや賃金上昇を背景にややシェア減。ただし巨大な内需と技術力は依然として無視できない。 - ベトナム・フィリピン
若い労働力とIT教育水準の上昇、さらに日本語教育の充実により、日系企業にとって魅力的なオフショア先となっている。 - 東欧（ウクライナ、ポーランドなど）
欧州主要国との時差や文化的な近さからニアショアが盛ん。英語力の高い優秀なエンジニアが多く、独自の強みを発揮している。
DX時代を支えるオフショア開発の3つの要因
①IT人材不足の深刻化
日本をはじめ多くの先進国でIT人材の供給が需要に追いつかず、開発コストも上昇傾向。オフショアで豊富な人材を確保しやすくなる。
②スピード重視の開発ニーズ
DX関連プロジェクトでは迅速なリリースが求められる。国内リソースだけでは難しい短納期を、時差を活かした24時間体制でカバーできる。
③コミュニケーションツールの進化
オンライン会議やプロジェクト管理ツール、AI翻訳などが普及し、海外チームとの連携における言語・距離の壁が大幅に低減。
次なる潮流はこうなる：クラウド、AI、マルチオフショア
クラウドプラットフォームが当たり前に
AWS、Azure、GCPなどを利用すれば、地理的な隔たりをほぼ感じさせない共通の開発環境を構築可能。ソースコード管理もGitHubやGitLabで一元化が進む。
AI・機械学習案件の拡大
AIやデータサイエンス分野は高度な数学知識を要するため、インドやベトナムなど理数教育の盛んな国の専門家を積極活用する動きが活発化。
リスク分散としてのマルチオフショア
単一国への過度な依存を避けるため、複数拠点を併用する企業が増えている。政治・経済リスク、為替リスク、自然災害などを分散しながら、各国の得意分野を組み合わせることで開発体制の安定性が高まる。
成功をつかむには？ 事例から学ぶポイント
事例：大手小売業のECシステム刷新
国内エンジニアのみでの開発に限界があったため、ベトナム拠点の開発会社を活用。要件定義・設計を国内チームが担当し、実装・テストをオフショアへ委託する“ハイブリッド方式”をとった。結果、約30％のコスト削減と納期短縮を実現。
成功の鍵
- 要件定義や設計など上流工程の透明化
仕様の誤解が起きないよう、定例ミーティングとレビューをこまめに実施する。 - コミュニケーション体制の強化
ブリッジSEなど、言語対応や文化的ギャップを埋める人材を確保。 - ラボ型契約の活用
一定期間、オフショアエンジニアを専属チームとして確保することで柔軟な仕様変更に対応。長期的なパートナーシップが築かれ、コア人材の離職リスクも低減。
終わりに：オフショア開発が広げる未来の可能性
オフショア開発の市場規模はグローバル全体で数兆円規模、日本国内でも数千億円規模に達し、今後も拡大が予想されています。DX需要や先端技術案件が増えるなか、オフショアリソースを活用できるかどうかが企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。
一方で、為替相場や国際情勢、セキュリティ面などリスクも存在するため、適切なパートナー選定とプロジェクト管理体制が不可欠です。市場規模の大きさだけに惑わされず、自社の開発ニーズに合った国・契約モデルを見極めることが、オフショア開発成功への第一歩となるでしょう。
将来的には、AIやIoT、AR/VRなどさらに高度な技術領域においても、海外の専門家を積極的に取り込みながら自社の開発力を高めるケースが増えていくと考えられます。オフショア開発が生み出す新たなビジネスチャンスを、ぜひ積極的に検討してみてください。
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