近年、多くの企業がiOSやAndroid向けのスマートフォンアプリを開発しています。しかし、日本国内ではITエンジニアの不足が深刻化しており、開発コストの高騰やプロジェクトの遅延が問題になるケースも増えています。
そこで注目されているのが、海外の優秀な人材を活用できる「オフショア開発」という方法です。本記事では、スマホアプリ開発をオフショアで進めるメリットや注意点、開発の流れなどを具体的に紹介します。
スマホアプリ市場とIT人材不足の現状
総務省の「令和3年版情報通信白書」によれば、日本のスマホアプリ市場はここ数年で大きく拡大し、2023年にはさらに成長が見込まれています。一方、経済産業省の調査では2030年までに最大79万人のIT人材が不足すると予想されています。
国内で優秀なアプリエンジニアを確保するのが難しく、開発費も高騰しがちなため、海外のエンジニアに開発を委託する「オフショア開発」が注目されているのです。
参考：令和3年版情報通信白書
オフショア開発とは
オフショア開発は、日本以外の国や地域へシステム開発やアプリ開発を外注する手法です。たとえばベトナムやフィリピン、インドなど、IT教育が盛んで人件費が比較的安い地域に開発を委託します。
コスト面や優秀なエンジニアを大量に確保しやすいメリットがある反面、言語・文化・時差などの壁からコミュニケーション・品質管理に注意が必要です。
スマホアプリ開発をオフショアで行うメリット
スマホアプリ特有の大幅な開発コスト削減が期待できる理由
スマホアプリはiOSとAndroidの両OS向けに開発するケースが多く、2つの開発チームが必要になることがあります。オフショア先ではエンジニア単価が国内より低いことが多く、2OS対応のアプリでも開発費をぐっと抑えられる可能性があります。
iOS・Android向けアプリを海外エンジニアから効率的に開発してもらえる根拠
ベトナムやインドなど、英語圏または英語教育が普及している国では、海外の技術ドキュメントを読み込むのが得意なエンジニアが多い傾向にあります。最新のiOS/Android技術やフレームワークにも精通していることが多く、短期間で質の高いアプリを作り上げやすいです。
企画・マーケティングに集中できるワークフロー設計
アプリの土台となるプログラミング部分を外注することで、社内スタッフはコンセプト作りやユーザー分析、プロモーション施策に力を注げます。特にスマホアプリは、リリース後の運営や追加機能が勝敗を分けるため、運営面に十分リソースを投じられるのは大きなメリットです。
グローバルな視点を取り入れたUI/UXの向上
海外エンジニアやデザイナーの視点から、画面構成や操作性について新たなアイデアを得られます。日本のユーザーだけでなく、アジアや欧米のマーケットにも通用するデザインや機能を取り入れれば、海外展開を見据えたアプリに仕上がる可能性があります。
オフショア開発のデメリット・注意
言語・文化・時差による仕様伝達ミスや誤解
海外チームには日本語が通じないことが多く、英語でやり取りしていても微妙なニュアンスが伝わらないリスクがあります。スマホアプリは細かいUI/UX調整が多いため、仕様の認識違いが発生しやすい点に要注意です。
ネイティブ／クロスプラットフォーム技術の選定と品質チェック
iOSネイティブ（Swiftなど）、Androidネイティブ（Kotlinなど）、あるいはFlutterやReact Nativeといったクロスプラットフォームなど、開発手法はさまざまです。オフショア先の得意技術と、自社アプリの要件（動作速度やUI、コストなど）が噛み合うかを確認しないと、品質面でトラブルになることがあります。
セキュリティ・情報漏洩リスクとその対策
アプリのソースコードやユーザー情報など、機密データを海外のチームと共有するため、情報漏洩のリスクが高まります。NDA（秘密保持契約）の締結や、アクセス制限、暗号化されたコミュニケーションツールの活用が重要です。
政治経済リスクや緊急事態時の対応策
海外では日本とは異なる祝祭日や長期連休、社会情勢の影響を受ける場合があります。コロナ禍などの緊急事態で突然国境が閉鎖されたり、開発がストップするリスクも想定し、複数拠点を使うなどのリスク分散を検討しましょう。
スマホアプリの開発フロー（オフショア編)
- 要件定義・仕様策定
- アプリの目的やターゲットユーザー、主要機能をまとめ、UIイメージを共有する。
- 開発先の選定・契約
- 技術スキル（iOS/Android・Flutterなど）や言語サポート（英語、日本語対応可否）を確認し、契約を結ぶ。
- 設計・デザイン
- 画面遷移図やワイヤーフレームを作成し、ブリッジSEなどを介してこまめにすり合わせる。
- 開発・実装
- 定例ミーティングやチャットツールで進捗を確認しつつ、逐次テストを行う。
- テスト・検証
- スマホ端末の実機テスト（iPhoneや複数のAndroid機種）を入念に行い、バグを修正する。
- アプリ審査・リリース
- iOSはApp Store、AndroidはGoogle Play向けに審査申請を行い、承認後リリース。
- 保守運用・アップデート
- OSのバージョンアップ対応や新機能追加、ユーザーフィードバックの反映を継続して行う。
開発会社を選ぶときのチェックポイント
日本語コミュニケーション体制の確保
スマホアプリは細かい画面調整や機能変更が多いため、日本語を理解できるエンジニアがいるか、あるいはブリッジSEが在籍しているかを重視しましょう。
過去のスマホアプリ開発実績や得意ジャンルの確認
SNS系やEC系、ビジネス向けなど、開発したアプリの種類を確認します。自社のジャンルに似た案件を多く扱っていれば、ノウハウが蓄積されており安心です。
見積もりと追加費用の明確化
「ネイティブ開発」「クロスプラットフォーム開発」などの違いで費用が変わります。また、機能追加時の追加費用や翻訳・通訳費など、細かい費用が見積もりに含まれているか要チェックです。
セキュリティ・契約範囲のすり合わせ
NDA（秘密保持契約）やソースコードの著作権、データ取り扱いルールなどを契約書で明確にしておきましょう。アプリのユーザーデータや課金情報を扱う場合は特に注意が必要です。
iOS / Androidそれぞれの審査基準や対応状況の確認
iOSとAndroidではストアの審査基準が異なります。オフショア先がApp Store審査やGoogle Play審査のノウハウを持っているか、どの程度経験があるかを事前に確認しましょう。
参考：システム開発会社16選を比較【2025年4月】選び方や費用相場も解説|NeeeD（ニード）
【比較表】主要オフショア地域のエンジニア平均給与水準
以下では、主要なオフショア開発先として挙げられる国々のエンジニア平均給与や特徴を一覧表にまとめています。国ごとに得意分野や労働市場の状況が異なるため、どの国が自社のスマホアプリ開発に最適かを検討するときの参考にしてください。
| 国・地域 | 平均月額給与（目安） | 特徴・備考 |
|---|---|---|
| ベトナム | 約10.4万～19.5万円 (800～1,500USD) | – 日本語対応エンジニアが比較的多い – スマホアプリ開発実績が豊富 – コストパフォーマンスに優れる |
| フィリピン | 約11.7万～20.8万円 (900～1,600USD) | – 英語教育が普及しておりコミュニケーションが取りやすい – BPO（事務処理代行）産業が盛んな国 |
| インド | 約13万～26万円 (1,000～2,000USD) | – 世界的なIT大国 – 先端技術や大規模プロジェクトの経験が豊富 – スマホアプリ開発の実績も多数 |
| バングラデシュ | 約6.5万～13万円 (500～1,000USD) | – IT産業が成長中で人件費が安い – 英語力や経験にばらつきがあるケースも |
| 中国 | 約19.5万～32.5万円 (1,500～2,500USD) | – AIやブロックチェーンなど先進領域に強い – 市場規模が非常に大きい – 大規模アプリやサービス開発の事例が多い |
POINT:
- 給与水準は国全体の平均的な目安であり、都市部や個人のスキルによって大きく変動する場合があります。
- スマホアプリ開発の実績や日本語対応の有無、最新技術への強みなど、コスト以外の要素も比較検討することで最適なオフショア先を選びやすくなります。
- 各国によって時差や祝祭日が異なるため、コミュニケーション体制やスケジュール設定をしっかり話し合っておくことが重要です。
スマホアプリ開発の費用目安とスケジュール感
| 規模・機能例 | 開発期間目安 | 費用目安（円） | 主な機能・特徴 |
|---|---|---|---|
| 小規模アプリ（SNS/予約など） | 3〜6ヶ月 | 300万〜800万円程度 | ユーザー認証、プッシュ通知、基本的なAPI連携（地図や予約システムなど） |
| 中規模アプリ（EC/課金機能など） | 6〜9ヶ月 | 800万〜2,000万円程度 | 商品登録、カート機能、決済システム、複数API連携 |
| 大規模アプリ（業務統合/大型サービスなど） | 9〜12ヶ月以上 | 2,000万円〜数億円規模 | 大規模DB、外部システム統合、複数プラットフォーム対応 |
- スマホアプリはiOS/Androidの両OS開発が必要になる場合が多く、費用も通常のWeb開発より高くなる傾向があります。
- オフショアを活用すれば国内開発に比べ30〜50%程度費用を抑えられる可能性がありますが、コミュニケーションコストや追加修正費用にも注意が必要です。
スマホアプリ開発で起きやすいトラブルと対策
アプリ審査不通過とストア規約の誤解
App StoreやGoogle Playの審査ルールを把握していないと、リジェクト（申請拒否）されるケースがあります。審査ガイドラインを開発の初期段階からチェックし、オフショア先にも共有しましょう。
コミュニケーション不足が引き起こすUI/UX不整合
「思った通りの画面にならない」「タップ位置やメニュー構成が違う」など、スマホアプリ特有のUI要素が誤って実装されがちです。画面設計図やデザインカンプを細かく共有し、定期ミーティングで確認することで防ぎます。
テスト環境の不一致によるバグ多発
オフショア先と自社側でスマホ端末やOSバージョンが異なる場合、バグが見つかりにくいことがあります。複数種類の実機テストを行い、可能ならテスト端末を揃えたりクラウドテストサービスを活用すると良いでしょう。
祝祭日・時差が招くリリースの遅れ
海外特有の長期休暇（旧正月、イースターなど）や時差を考慮せずにスケジュールを組むと、肝心のリリースタイミングに間に合わない恐れがあります。カレンダーを事前に共有し、納期に余裕を持たせることが大切です。
リリース後のアップデート対応やOSバージョンアップへの追随不足
スマホOSは定期的に大型アップデートがあります。リリース後も継続的に開発チームと連携し、バージョンアップへの対応や新機能追加に素早く動ける体制を整えましょう。
まとめ
スマホアプリ開発は、iOSとAndroidの両OSに対応する必要があるため、国内人材だけで賄おうとするとエンジニア不足やコスト高騰のリスクが高まります。そこで、海外の優秀な人材を活用し、開発費を30〜50％ほど削減できる可能性がある「オフショア開発」が注目されています。ただし、言語や文化の差、時差などが原因でUI/UXや仕様に対する認識のずれが生じやすく、品質管理が難しくなる傾向があります。成功のためには、ブリッジSEの配置や定期的な進捗確認、十分なテスト環境の整備、セキュリティや契約内容の明確化など、入念な準備とコミュニケーション体制の構築が不可欠です。さらに、スマホアプリはリリース後の運用やバージョンアップ対応が非常に重要なため、オフショア先との長期的な協力関係を築き、保守運用体制も含めて継続的に連携できる仕組みを整えておくことが成功のカギとなります。
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